築古の家を買う前に。建築士が話す、インスペクションで分かること・分からないこと

この記事で分かること

インスペクションという言葉、聞いたことはありますか?中古住宅を買う前に、建物の今の状態を専門家に見てもらう「健康診断」のような調査です。この記事では、古い家を買っても大丈夫かが気になっている方に向けて、インスペクションで分かること・分からないこと、費用の目安、報告書の読み方を、買う前に考える順番でまとめました。

日当たりのいいリビング、思っていたより広い収納。内見で「ここ、いいかも」と思った瞬間から、家探しは急に自分ごとになります。

でも、そのとき見えているのは、家のほんの表面です。床の下は? 壁の中は? 屋根の上は?建物は、見えないところにこそ傷みや手入れの跡が出ます。

この記事を読み終えるころには、気になっている物件で「何を、誰に、いつまでに確かめればいいか」が、見えてくると思います。制度や費用の説明は、国土交通省の資料(出典確認日:2026-10-17)にもとづいています。

目次

  1. 内見で見ているのは、家の「表情」だけかもしれません
  2. インスペクションは、必ずやる必要がある? 費用の目安も
  3. どこに頼む? 「何を調べてくれるか」と「誰が来るか」で選ぶ
  4. 報告書の「問題なし」と「調べられなかった」は、まったく別のもの
  5. 壁を取れるか、キッチンを動かせるかは、調査とは別に確かめる
  6. 買うかを決める日から逆算して、調査日を決める
  7. 報告書を使って、リノベーションで先に直すところを決める
  8. 僕が町田の中古マンションを買ったとき、資料で確かめたこと
  9. まとめ:確かめる順番が分かれば、古い家でも落ち着いて選べる

1. 内見で見ているのは、家の「表情」だけかもしれません

内見中の明るい空き部屋の線画。床の下に点線で見えない部分を示したイラスト

内見のとき、どこを見ていますか? 間取り、日当たり、窓からの眺め、キッチンの使い勝手。どれも大切です。

ただ、それは家の「表情」のようなもので、体の中の調子までは分かりません。インスペクションは、住宅の劣化や不具合を専門家が調べる検査です。人でいえば健康診断。見ただけでは気づきにくいひび割れや、雨漏りの痕跡などを確認します。

結果は「買うか、やめるか」を決めるためだけのものではありません。買うとしたら、どこを直してから住むか。それを考える材料にもなります。

ただし、インスペクションでも壁や床の中までくまなく見られるわけではありません。リノベーションを考えているなら、調査で分かったことを、リノベーションの設計者や施工会社にも見てもらいましょう。

「工事のために、ここも確かめておきたいですね」という話が、そこから出てきます。ここを飛ばしてしまうと、内見の印象だけで「買うか」「どこを直すか」を決めることになります。

2. インスペクションは、必ずやる必要がある? 費用の目安も

机の上の電卓・家の模型・ノートの線画イラスト

インスペクションは、必ずやらなければいけないものではありません。中古住宅の売買で、調査をすること自体は法律で決められていないんです。

頼むかどうかは、買う人や売る人が選べます(買主が調査を頼むときは、あらかじめ売主の承諾が必要です)。2018年4月に施行された改正宅地建物取引業法では、仲介のときに建物状況調査を活用する仕組みができました。

仲介する宅建業者は、媒介契約のときに調査をする人をあっせんできるかどうかを示します。重要事項説明では、一定期間内に調査をしたかどうかと、している場合は結果の概要を説明します。

つまり「調査をしたかどうか」は、売買の場でちゃんと話題にのぼるようになっています。

では、費用はどのくらいでしょう。一律の基準はありませんが、宅地建物取引業法にもとづく「建物状況調査」の場合、国土交通省のQ&Aでは、標準的な検査内容で「6万円程度~」が目安とされています。

ただし、戸建て住宅(木造)とマンション(鉄筋コンクリート造等)では、規模や工法によって調べる部位や箇所数が違うため、費用が異なることがあります(国土交通省「宅地建物取引業法における建物状況調査に関するQ&A」令和6年4月1日現在・A1-8)。追加の調査でも変わるので、実際の金額は依頼先の見積りで確かめてください。

費用は、依頼した人が負担するのが一般的です。売主と買主のどちらが頼むのか、追加調査の費用はどうするのか。ここは先に話しておくと、あとで揉めずに済みます。(国土交通省Q&A・A1-5/A1-8/A1-11)

僕は、買主が費用を負担することになっても、購入前のインスペクションをおすすめしています。建物の状態が分からないままでは、その価格が妥当なのか、リノベーションにどれくらいの予算を残せばいいのかを決められないからです。

住宅という大きな買い物の前に、判断の材料をひとつ増やしておく。そのための費用だと考えています。

3. どこに頼む? 「何を調べてくれるか」と「誰が来るか」で選ぶ

懐中電灯・メジャー・水平器・点検鏡を並べた線画イラスト

調べてみると、「住宅診断」「ホームインスペクション」など、いろいろな名前のサービスが出てきます。名前が同じでも、調べる範囲は依頼先によって違います。

一方で、宅地建物取引業法にもとづく「建物状況調査」には、調べ方の基準があります。担当するのは、国の登録を受けた講習を修了した建築士、「既存住宅状況調査技術者」です。

基礎や柱・梁のように建物を支える部分と、屋根や外壁のように雨水を防ぐ部分の傷み具合を、主に目で見たり測ったりして確認します。なお、建物状況調査では、給排水の設備などは基本の対象に入っていません。水まわりが気になるなら、追加で調べてもらえるか相談しておきましょう。

依頼先を比べるときは、こんなことを聞いてみてください。

  • 制度に沿った調査ですか? どこまでが基本料金に入っていますか?
  • 当日はどなたが来ますか? 資格や経験、調べ方は?
  • 報告書の見本を見せてもらえますか? 結果の説明はありますか?
  • 売主さんや仲介会社、工事会社とはどんな関係ですか?
  • 床下や屋根裏は、点検口からのぞくのか、中に入って調べるのか?

戸建てとマンションでも、見てほしい場所は変わります。木造の戸建てなら、基礎や外壁のひび割れ、雨漏りの痕跡に加えて、床下の木部の腐れやシロアリ被害も気になるところ。

マンションは室内だけでなく共用部分も調査の対象になりますが、どこまで見られるかは調査の方式や依頼内容しだいです。管理組合の調査資料を使えるかも含めて、相談してみてください。

※分かるのは、調べた時点・調べた範囲での状態です。欠陥がないことや、この先不具合が起きないことを保証するものではありません。(国土交通省Q&A)

頼む前に範囲をすり合わせておかないと、報告書を開いてから「あれ、いちばん気になっていた設備が入っていない」ということも起こりえます。

4. 報告書の「問題なし」と「調べられなかった」は、まったく別のもの

チェック済みの項目と、確認できなかった項目を示す報告書の線画

報告書が届くと、つい指摘された不具合の数に目がいきます。でも、もうひとつ見てほしいのが「調べられなかった場所」です。

点検口がない、家具で隠れている。そんな理由で確認できなかった箇所は、報告書にそう書かれます。書かれていないところまで「問題なし」と受け取ってしまうのは、少し早いんです。

調べた範囲と結果は、いつもセットで読んでください。(国土交通省Q&A・A2-4)

たとえば、床を張り替えるつもりの部屋。床下を確認できていなければ、下地の補修がどのくらい必要かは、報告書だけでは決められません。

点検口から追加で見られるのか、解体してからでないと分からないのか。そこを設計者や施工者と相談します。

解体するまで分からない部分が残るなら、追加工事が出たときの予算や、工事内容を見直すタイミングも先に決めておくと、慌てずに済みます。もちろん、「見えていない場所があるから買えない」と決めつける必要はありません。大事なのは、分からないことを分からないまま「工事費はこれで確定」と思い込まないこと。

床下が未確認のまま工事費を決めてしまうと、解体したあとに追加の費用が出てくることがあります。

壁のひび割れを虫眼鏡で確かめる線画

5. 壁を取れるか、キッチンを動かせるかは、調査とは別に確かめる

間取りスケッチと鉛筆・定規。壁の一部を点線で示したイラスト

ここからは、リノベーションを考えている方向けの話です。基本的なインスペクションには、耐震性や断熱性の性能評価、建築基準関係の法令に合っているかの判定まで、すべてが含まれているわけではありません。必要なら、別の診断や調査として頼みます。(国土交通省「既存住宅インスペクション・ガイドライン」)

「壁を取り払って広いLDKにしたい」なら、まずその壁が建物を支える役割を持っているかを確認します。取れるかどうかは、図面と現地の状況をふまえて設計者が検討します。

「キッチンを窓のほうへ動かしたい」なら、配管の通り道や床下のすき間、排水の勾配がポイントです。設備が傷んでいないかの調査と、動かせるかどうかの設計の検討。この2つを分けて頼むと、確認漏れが減ります。

マンションなら、管理規約や工事の細則も見ておきましょう。床材に求められる遮音性能や、窓・玄関扉など共用部分を変えるときの手続きなどです。

国の標準管理規約はひな型なので、実際の条件は買うマンションの規約で確かめます。依頼するときに、気になっている不具合と、リノベーションで変えたい場所を簡単なメモにして渡しておくと、「じゃあ、ここも見ておきましょう」と話がつながりやすくなります。

ここを確かめずに買うと、あとから「この壁は取れない」「キッチンは動かせない」と分かって、思い描いていた間取りを一から考え直すことになりかねません。

関連記事:中古マンション購入前に確認したいリノベーションの工事条件

6. 買うかを決める日から逆算して、調査日を決める

丸印をつけた卓上カレンダーと置き時計のイラスト

買主が調査を頼むときは、あらかじめ売主の承諾が必要です。マンションなら、共用部分の調査について管理組合の了承もいります。「調査をしたい」ということは、仲介の担当者に早めに伝えておきましょう。(国土交通省Q&A・A1-10/A2-7)

そのうえで、おすすめしたいのが、費用を決める日(買うかどうか、工事にいくらかけるかを決める日)を先に置くことです。

そこから逆算して、説明を受ける日、報告書を受け取る日、調査の日を並べていきます。頼む前には、こんなことも確かめておくとスムーズです。

  • 基本料金に含まれる範囲と、追加費用がかかる調査
  • 当日までに用意する図面や資料
  • 部屋への立ち入りや点検口の確認を、誰が調整するか
  • 報告書がいつ届くか、結果について質問できる機会があるか

日程に余裕がないと、決める直前に報告書だけが届いて、気になる点を確かめる時間が残っていない、ということになりがちです。

7. 報告書を使って、リノベーションで先に直すところを決める

報告書と素材サンプル、お茶を置いた机の線画イラスト

報告書を受け取ったら、調べた人に結果を説明してもらい、設計者や施工者にも共有しましょう。指摘された不具合を、そのまま工事項目に書き写す必要はありません。

それよりも、「買うかどうか」「どう直すか」を決めるための質問に置き換えてみてください。

  • 不具合の指摘 → 原因と直し方を、誰に追加で聞けばいい?
  • 調べられなかった箇所 → いつ確認できる? 分からないまま進めるなら、どう備える?
  • やりたいリノベーション → 実現できる条件は? 見積りの前に必要な資料は?

デザインの希望だけで工事内容を固めず、直さなければいけないところと、暮らしのために変えたいところを分けて考える。報告書をそのための資料として使うと、次に何を相談すればいいかがはっきりします。逆に、優先順位があいまいなままだと、見積りを比べるときの物差しも決まりません。

報告書の読み方や、どこから直すかを一緒に整理したいときは、購入前の相談を申し込むから気軽に声をかけてください。

8. 僕が町田の中古マンションを買ったとき、資料で確かめたこと

書類ファイルと図面、背景にマンションの輪郭を描いた線画イラスト(実物の写真ではありません)

ここまでインスペクションをおすすめしてきましたが、実は、僕自身が町田市の中古マンションを買ったときは、インスペクションを頼んでいません。その代わりに、資料で確かめたことがあります。ひとつは、新耐震基準の建物であること。建築確認の確認済証を、仲介の担当者と一緒に確認しました。

もうひとつは、大規模修繕工事が行われていること。防水、外壁塗装の更新、給排水管の建物丸ごとの更新などが済んでいることを、資料で確かめました。

管理組合の長期修繕計画も、買う判断の材料にしています。もちろん、これは僕自身の物件での判断です。同じ築年数や似た条件でも、建物の状態はそれぞれ違います。

なお、僕は一級建築士ですが、今は既存住宅状況調査技術者の資格を持っていないため、宅地建物取引業法にもとづく建物状況調査はお受けしていません。気になる物件があるなら、建築士と一緒に内見するのもひとつの方法です。現地で一緒に見ると、図面では分からないことをその場で確かめられます。

内見への同行も、初回相談のあとで別にご相談いただけます。まずは初回相談から → 購入前の相談を申し込む

9. まとめ:確かめる順番が分かれば、古い家でも落ち着いて選べる

窓辺の椅子と、テーブルに置かれた鍵の線画イラスト

内見では見えない建物の状態を確かめるのが、インスペクションです。必ずやる必要はありませんが、費用と誰が頼むかを先に話し合ったうえで、買う前に頼むことをおすすめします。

依頼先は「何を調べてくれるか」と「誰が来るか」で選びます。報告書は「問題なし」と「調べられなかった」を分けて読み、間取りや設備の希望は別に相談しましょう。

日程は決める日から逆算し、結果はリノベーションで直す順番につなげます。そして最後に残るのが、調査結果をどう読み、どこまでを買う判断に含めるか、という問いです。ここは、一人だと決めきれないことが多いところです。

購入前のご相談について

調査で分からない部分をどこまで受け入れて買うか。その基準を一緒につくるのが初回相談です。

図面は必要ありません。いま悩んでいることと、noteの前半(公開部分)にあるワークシートも、送っていただけると話が早く進みます(なくても大丈夫です)。

後半のワークまで済ませてあれば、さらに進めやすくなります。(note「不動産購入の迷走を終わらせる『7つのワーク』」https://note.com/yangyang_miyagi/n/n349519a3483a)

初回相談は、コンセプト設計から入ります。間取りや条件を集める前に、それを決めるための判断基準をつくります。初回無料相談20分です。

オンラインのほか、首都圏なら対面でもお話しできます。リノベーションした自邸の見学も、気軽にご相談ください。内見への同行も、初回相談のあとで別にご相談いただけます。

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この記事を書いた人

宮城 洋之|meta architecture project(m-ap)

一級建築士・宅地建物取引士・FP2級。建築設計、まちづくり、既存建物の活用に取り組んでいます。自邸として町田市に中古マンションを購入し、リノベーションを実践。4mの大きなアイランドキッチンと、骨董市で集めたお気に入りの食器たちに囲まれて暮らしています。

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